Draw the new standard.
変わり続ける定番を描く。


MULTI WAFFLEシリーズは、2025年春夏シーズンより“Always Better.” をテーマに掲げ、サイクリングウェアから日常着を目指したライフスタイルコレクションへとシフトしました。
その象徴となるグラフィックを担当したのが、イラストレーターの平沼久幸さん。
ここでは、平沼さんのクリエイティブな視点とグラフィック制作秘話に迫ります。
<目次>
・カテゴリーに縛られない、創作の原点。
・narifuriと日常へのまなざし。
・変わり続ける定番を描く。
カテゴリーに縛られない創作の原点。


平沼久幸さんはもともとアパレル企業でPRとしてキャリアを積みながら、一方で趣味としてイラストを描き続けてきました。その後フリーランスに転じ、現在はポップさとシニカルな作風が持ち味のイラストレーターとして活躍中。「違和感の掛け合わせっていうのが好きなんです」と語るように、意外な組み合わせから新鮮な意味を生み出すユニークさが平沼さんの真骨頂です。


しかし、はじめからイラストレーター一本で生計を立てられると思っていたわけではありませんでした。平沼さんは30歳の頃、それまで勤めていた会社を辞めて独立。当初は「PRのフリーランスをやりつつ、半々で絵を描こうと思っていました。でも“それじゃ良くない”と思ったんです。
僕が仕事をお願いする側だったら、絵を描いていることだけやっている人に頼みたいって思ったんですよね」と振り返り、“描くこと”に専念するように。幼い頃からチラシの裏に落書きして遊んでいたという平沼さんにとって、枠にとらわれないクリエイションはごく自然なスタンスなのかもしれません。
narifuriと日常へのまなざし。


narifuriは、日常の振る舞いが身振り(スタイル)を作るというコンセプトのもと、創業当初から「街で映えるサイクルウェア」を追求。ファッションと機能、そしてデザインを融合させ、サイクリストだけでなく一般の人たちにも「自転車に乗る楽しさ」を提案してきました。なかでも「MULTI WAFFLE」シリーズは、重くて乾きにくいという従来のサーマル素材の常識を覆した画期的なプロダクトとして、2020年のデビュー以降、ずっと愛され続けています。
MULTI WAFFLE Collection


そして2025年春夏シーズンからは、テーマに“Always Better.” を掲げ、日常着を目指した新たなライフスタイルコレクションへとシフト。 平沼さんは、そんなnarifuriの革新的ウェアに魅せられた一人です。
「若い頃からサイクルカルチャー系のブランドをめちゃくちゃ掘っていました」という彼は、「narifuriってかっこいいんだけど、当時の自分にとってはちょっと高かったんですよね(笑)」と振り返りつつ、ずっとnarifuriのプロダクトに注目していました。
さらに「どこかハイテクなイメージがあって、カラーリングも街に馴染みやすいものが多い。昔からこだわりがあるブランドだなって思って見ていました」とも語り、機能性の追求というnarifuriの姿勢に共感しています。




平沼さんも自身の制作活動について「何かしらコミュニケーションのフックになるようなアイデアを入れるようにしています」と語っており、日常に寄り添う工夫を作品に忍ばせてきました。自転車から派生し、ライフスタイル全般へ視野を広げるnarifuriの姿勢は、そうした平沼さんの制作スタイルとも通じるところがあります。
変わり続ける定番を描く。




今回、narifuriのMULTI WAFFLEシリーズのために平沼さんが描き下ろしたグラフィックは、彼の視点が遺憾なく発揮されています。
ちなみに、制作にあたっての事前のオーダーは、「このワッフルで絵を描いてほしい」と超シンプルで自由度高め。また「ブランドの背景って自転車だと思うんですけど、『今回は自転車よりもワッフルに注目させたい』ってことだったので、じゃあワッフルじゃんって(笑)」と、制作序盤で製品の“ワッフル”生地そのものにフォーカスするイメージは固まっていました。


ところで、ファッションに携わる人なら聞き慣れた「ワッフル」ですが、一般の人からすれば「これがワッフル?」とピンとこない可能性もあります。そこで平沼さんは、補足の意味も込めてビジュアル全体を洒落を効いたものに仕立てました。
「一般の人から『なんでワッフル?』ってなった時に、『いや、この生地の凹凸がワッフルみたいに見えるんですよ』って接客の説明ができるような、そんな遊び心を落とし込んだんです」と話すように、食べ物のワッフルとウェアのワッフルをダブルミーニングのように表現したストーリーが込められています。


グラフィック案は複数考えていたそうで、生地サンプルを垂らして「Always Better.」の文字を載せる案もあったと言います。しかし最終的には「まず、なんでワッフルかを視覚的に伝える方が面白い」という判断で現在の案に落ち着きました。
制作過程ではナイキの名作スニーカー“ワッフルレーサー”の存在も頭をよぎりましたが、「あれがワッフル=〇〇になるんだったら、MULTI WAFFLEをワッフル=〇〇にしてもいいじゃん!」という発想で、既存のイメージに負けないインパクトを狙いました。


こうして完成したグラフィックには、平沼さん自身の“定番”観も反映されています。「ずっと変わらない定番は道具だけでいい。テープとかペンのインクとか、そういうものはずっと供給されてほしいけど、周りのものが変わらなかったら自分も変わらないと思います。だから服とか遊びのものとかは徐々にアップデートされていった方が楽しいと思います」と話します。


常に変化し続けることこそが進化であり、そうして定番に変化を与え続ける「MULTI WAFFLE」シリーズは、平沼さんの考える「変わり続ける定番」を体現しています。
MULTI WAFFLE Collection
Always Better.


平沼久幸氏のアートワークを記念したオリジナルステッカーのプレゼントキャンペーンがスタート。詳しくは、こちらをご覧ください。
Sticker Campaign


平沼久幸
イラストレーター
映画やポップカルチャーから影響を受けたシニカルな表現を得意とし、MOUNTAIN RESEARCHをはじめとするファッションブランドや格闘家・宇野薫率いる100A、武藤敬司、松坂屋百貨店、伊勢丹、CLARKS、LOFT、UNIQLO、SONYMUSIC、HOUYHNHNMなど、クライアント・活動は多岐にわたる。描き下ろしイラストを使用したシルクスクリーンワークショップをスタート、日本各地で神出鬼没に展開中。また、イラストレーションと並行し、自身の体験から生み出された“めまい”作品を作品展などで発表している。
Instagram:@hiranuma_hisayuki
Photo:Ryo Yamamoto (81BASTARDS)
Text:Jun Nakada